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東京地方裁判所 平成2年(ワ)4903号 判決

原告 甲野花子

〈ほか一名〉

右両名訴訟代理人弁護士 伊藤茂昭

同 松田耕治

同 溝口敬人

同 平松重道

同 藤原隆宏

被告 乙山春子

右訴訟代理人弁護士 土釜惟次

主文

一  別紙物件目録記載の各不動産は、いずれもこれを競売に付し、その売得金より競売手続費用を控除した金額を、原告ら及び被告に各三分の一の割合で分割する。

二  訴訟費用は、被告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

主文同旨

第二事案の概要

本件は、遺産分割協議の結果相続人全員の共有とされてその旨の登記のされている不動産につき、相続人のうちの一部から共有物分割請求がなされた事件である。

一  争いのない事実

1  別紙物件目録記載の土地(本件土地)及び建物(本件建物)は、亡・甲野太郎の所有するところであったところ(ただし、後記のとおり本件建物のうち増築部分について争いがある。)、太郎は、昭和四九年七月九日に死亡し、その相続人は、原告甲野花子(妻)、被告乙山春子(長女)及び原告丙川夏子(三女)の三名であった。

2  平成元年一〇月ころ、右三名の間で、本件土地及び本件建物(ただし、後記のとおり本件建物のうち増築部分について争いがある。)を各三分の一ずつの共有持分にて取得することで遺産分割協議が成立し、その旨の登記手続を行った。

3  本件建物は、昭和二七年二月ころ、太郎が建築したものであるが、その当時は、登記簿上の表示のとおり(木造瓦葺き平家建て居宅、床面積四六・二八平方メートル)であったが、その後に行われた増築の結果、登記簿上の表示と現況(木造瓦葺き二階建て居宅、延床面積一八六・七六平方メートル)とが異なることになった。

4  本件土地は、別紙測量図面のとおりのいわゆる旗竿地であり、西側の公道に幅約二・八六メートルで接道している。本件土地は、その東側が、現況通路(幅約二メートル)に接しているが、これは元水路を埋め立てたものであって、建築基準法上の道路とは認められていない。

二  争点

1  本件建物については、昭和四九年の相続時において、増築部分を含めた建物全体が太郎の所有に属するものであったかどうか。

原告らは、本件建物の増築部分については、既存の建物部分と別個独立の存在といえないことから、仮に被告夫婦の出費により増築されたとしても、増築の都度、既存の建物部分に附合して、太郎の所有に属したものであって、原告ら及び被告の遺産分割協議の際にも、合意の対象たる建物は、本件建物全体であったと主張する。

被告は、これを争って、本件建物のうち増築部分は、被告夫婦の出費により増築されたもので、構造上、機能上の独立性を有するから独立の所有権の対象となり、昭和四九年の相続時において太郎の所有に属するものではなく、遺産分割協議の合意の対象たる建物は、本件建物のうち増築部分を除いた部分(登記簿上の表示に一致した部分)のみであると主張する。

2  本件土地及び本件建物につき、現物分割が可能か。可能であるとしても、分割により著しく価格を損なうおそれがあるか。

原告らは、本件土地については、どのような分割案をとっても、現物分割により生ずる土地のいずれかは、建築基準法上の接道義務(建築基準法四三条一項)を充たさない袋地とならざるを得ないから、その結果、著しい使用価値、交換価値の減少を引き起こすものであり、本件建物もその構造上、現物分割は不可能であると主張する。

被告は、これを争い、本件土地及び本件建物について現物分割を行うのが相当であると主張する。

第三争点に対する判断

1  争点1(相続時における本件建物の所有関係)について

本件建物は、昭和二七年二月ころ、太郎が建築したものであるが、その当時は、登記簿上の表示のとおり(木造瓦葺き平家建て居宅、床面積四六・二八平方メートル)であったが、その後、昭和三六年ころ及び昭和四六年ころの二度にわたって、被告夫婦の出費により東側に一、二階部分の増築を行い、この結果、登記簿上の表示と現況(木造瓦葺き二階建て居宅、延床面積一八六・七六平方メートル)とが異なることになった。

増築部分は、昭和二七年の太郎の建築に係る本来の建物部分(本来建物部分)に増築を加えたものであるところ(争いがない。)、増築部分と本来建物部分との間には、外壁に相当するものがなく、単なる室内の壁が存在するだけで、その室内壁も一部が開いていて双方部分の間の相互の行き来が可能となっている。また、増築部分と本来建物部分とは一本の柱を共用する形で建築されていることから、増築部分のみでの自立は不可能である。これらによれば、増築部分は、本来建物部分と離れての構造上の独立性を有するものとはいえない。これらの事実によれば、本件建物のうち増築部分は、独立の所有権の対象となるものではなく、増築の都度、太郎の建築に係る本来建物部分に附合して太郎の所有に属したものというべきである。したがって、昭和四九年の相続時においては、増築部分を含めた本件建物全体が太郎の所有に属するものとして相続財産となったものであり、本件建物において増築部分のみが独立して処分の対象となり得ない以上、遺産分割協議においても、増築部分を含めた本件建物全体がその対象となっていたというべきである(なお、付言するに、遺産分割協議の前後の状況としては、原告らのみならず被告においても、増築部分からの被告夫婦の立ち退き及び増築部分を含めての本件建物の第三者への売却を想定しての行動をとっており、このような事情からすれば、被告自身においても遺産分割協議の対象が増築部分を含めた本件建物全体であることを認識していたものと認められる。)。

2  争点2(現物分割の可能性)について

本件土地は、都市計画区域内(第二種住居専用地域)に所在し、建築基準法にいう「道路」に二メートル以上接していなければならないところ(建築基準法四一条の二、四三条一項)、別紙測量図面のとおりのいわゆる旗竿地であり、西側の公道に幅約二・八六メートルで接道している(争いがない。)。本件土地は、その東側が、現況通路(幅約二メートル)に接しているが、これは元水路を埋め立てたものであって、建築基準法上の道路とは設められていない(争いがない。)。

西側の公道に接している幅は、前記のとおり約二・八六メートルであり、この接道部分は、別紙測量図面のとおり、本件土地のうちの幅約二・八六メートル、奥行約一四・四五メートルの細長い形の路地状の部分であること(争いがない。)に照らせば、本件土地を現物分割しようとするときは、分割の結果生ずる各土地がいずれも建築基準法上の接道義務を充たすように分割を行うことは不可能であり、分割の結果生ずる土地のいずれかが、建築基準法上の接道義務を充たさない土地となるのは明らかである。そして、接道義務を充たさず建物の敷地として適法に利用できない袋地部分については、その使用価値、交換価値が著しく小さくなると認められる。ただでさえ、さほど広い面積といえない本件土地(地積二一二・八九平方メートル)を分割してこれより小さな面積の土地に分筆することは、土地の有効利用可能性の観点から、全体としての使用価値、交換価値を減少させることになるというべきところ、このように建築基準法上、建物の建築が不可能な土地を作り出すことになるのでは、本件土地を現物分割することは、本件土地の全体としての価格を著しく損なうことになるというべきである。

また、本件建物については、前記認定のとおり、その構造上、全体で一個の建物と認められるものであり、また、その一部分が独立して別個の所有権の対象となり得るものではないから、これらに照らせば、現物分割の可能性のないことは明らかである。

以上によれば、本件土地について現物分割を行うことは、その価格を著しく損なうおそれがあるものであり、また、本件建物について現物分割を行うことは不可能というべきである。

3  結論

したがって、本件土地及び本件建物については、原告ら主張のとおり、代金分割の方法によるほかないので、民法二五八条二項に基づいて競売を命じ、その売得金を原告ら及び被告の各持分に応じて各三分の一に分割することとする。よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 三村量一)

〈以下省略〉

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